現在進行形の研究の簡単な紹介
現在、毒性学教室で行っている研究の一部について、簡単に紹介いたします。
アフリカで進行する環境汚染の動物およびヒトに及ぼす影響の解明
アフリカに対するイメージはどのようなものでしょうか。一面に広がるサバンナ、その中に棲むライオン、ゾウ、キリンやカバなど多くの野生動物に溢れた未開の大陸。
確かにそのような面もありますが、その一方で、現在アフリカにおいても急速な開発に伴う環境汚染問題が深刻となりつつあります。実際に環境汚染の影響は起こっているのでしょうか。私たちの研究では、アフリカにおける土壌や魚をはじめとして、カバやワニ、野生鳥類などの野生動物や家畜およびヒトに対する環境汚染物質の影響について調査し、汚染源の推定や対策指針を構築することを目的としています。
現在、さまざまなアフリカ諸国において、現地の研究者やスタッフ、そして各地域での地元の方の協力のもと調査・研究を進めています。対象国としては、10ヶ国以上(ザンビア、南アフリカ、ガーナ、エチオピア、エジプト、ナイジェリア、カメルーン、タンザニア、ケニア、ボツワナ、ウガンダ、スーダン)の研究機関と共同研究を展開しています。
獣医学研究科で行っているプロジェクト「研究拠点形成事業アジアアフリカ型(アフリカ8カ国との国際トキシコロジー・コンソーシアムの形成)」もご参照ください。
ペット動物の代謝機構解明と甲状腺機能への影響評価
私たちの身の回りには多くの化学物質が存在し、摂食や接触、呼吸などを通して様々な化学物質を生体内に取り込んでいます。
それはヒトだけでなく、生活圏を共にするペット動物も同様に化学物質を取り込んでいると考えられます。とくに、難燃剤として使用される化学物質は、家具や家電に使用されており、私たちの身近に存在しています。ハウスダストに含まれる難燃剤や餌に含まれる化学物質を取り込むことによってペットの健康への悪影響が心配されており、病気を引き起こしているかもしれません。
しかしながら、ペット動物の代謝機構は不明な点が多く、化学物質の取り込みによってどのような影響があるのか分かっていません。
本研究室では、ペット動物、とくにネコに注目し、化学物質の代謝能を明らかにすることと健康への影響を評価することを目指しています。
化学物質に対する生体防御システムの進化と種差に関する研究
生物は体に悪い物質から自信を守るシステムを進化させて来ました。
この防御システムには、シトクロムP450を始め、様々なタンパク質が関与しています。化学物質が様々な生物にどのような影響を与えるのかを知るには、これらのタンパク質について詳しく知る必要があります。
本研究室では、ライオンやトド、オオワシやオジロワシ等の汚染物質の蓄積が懸念されている肉食動物、エゾジカやバク、キリン、ゾウといった植物毒にさらされている動物、ウシやウマ、ニワトリといった産業動物、カエルやイモリなど半水生で汚染物質の影響を大きく受ける可能性がある両生類、さらに脊椎動物が共通して持つ防御システムがどの様に進化してきたのかを探る上での鍵となる脊索動物、これら様々な動物の防御機構分子種の研究を行っています。
更に、これら防御システムを活性化させ、体に取ってメリットとなるような機能性食品の探索を行っています。
殺鼠剤耐性機構の解明
クマネズミ、ドブネズミなどはペストやレプトスピラ症など様々な人獣共通感染症を媒介する動物として知られており、昔から駆除の対象とされてきました。
その駆除は一般的に殺鼠剤と呼ばれる毒物を含有した餌を用いて行われますが、近年その殺鼠剤を致死量以上食べても死なないネズミ(スーパーラット)が現れ、その駆除が難航し問題となっています。また殺鼠剤は、野鳥をはじめとした駆除の対象とならない動物が誤食したり、殺鼠剤の影響で死んだネズミを捕食したりすることで、2次的被害を起こす危険性があります。
そこで本研究では、スーパーラットが殺鼠剤抵抗性獲得したメカニズムと、殺鼠剤のネズミ以外の動物に与える影響について検討しています。
また、効率的にスーパーラットを駆除するための殺鼠剤の開発も試みています。