ザンビア共和国における環境汚染調査とシンポジウムの参加
アフリカにおける環境汚染調査および環境マネージメントに応用可能な
科学的モデリング・解析手法の開発
獣医学研究科環境獣医科学講座毒性学教室・博士研究員・中山翔太
派遣先(受入研究者):
ザンビア大学・獣医学部・Dr. Kaampwe Muzandu、講師(ザンビア共和国・ルサカ市)
ザンビア大学・獣医学部・Dr. Tapiwa Lundu、講師(ザンビア共和国・ルサカ市)
派遣期間 :2012年8月19日~9月6日
近年、アフリカ諸国では急速な開発・発展に伴う環境汚染の問題が顕在化・深刻化してきている。申請者のこれまでの研究結果からも、アフリカ諸国では、予想以上の規模で汚染が進行していることが明らかになり、ヒト・家畜・野生動物を含めた環境全体における汚染対策や環境マネージメントの必要性が浮き彫りになってきた。そこで、本研究では、これらの地域を中心に環境汚染の影響を明らかにするとともに、今後の地球規模での汚染進行を考慮した上での、適切な環境マネージメントに応用できる科学的なモデリング・解析手法を開発することを目的とする。特に今回の渡航では、①ザンビアのカブエ鉱床地域における野生ラット・家畜のサンプリング、②アフリカの環境汚染に関する国際シンポジウムへの参加・研究発表を行う。
①ザンビアのカブエ鉱床地域におけるサンプリング
カブエ鉱床付近における水、土壌、野菜、家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギ)、家禽(ニワトリ)および野生ラットなどを採材し、鉱床由来の汚染におけるヒト・動物を含めた環境全体でのリスク評価やマネージメントに関するデータを提供する。
②アフリカの環境汚染に関する国際シンポジウムへの参加
ザンビア大学で開催されるアフリカの環境汚染に関する国際シンポジウム「4th International Toxicology Symposium in Africa」に参加する。本シンポジウムでは、申請者のこれまでの研究成果を発表し、海外研究者とディスカッションを行う。また、本シンポジウムには10ヶ国以上のアフリカ諸国における環境化学・環境毒性学研究者の参加が予定されており、各国の環境汚染の状況とその対策など環境マネージメントにおける活発な議論が予想され、報告者自身の環境マネージメント分野での新たな経験となることが期待できる。
【今回の渡航期間中に行った研究(研修)内容】
①ザンビアのカブエ鉱床地域におけるサンプリング
これまで報告者は、ザンビア共和国のカブエ鉱床において、水、土壌などの環境試料、ヒトの食糧源となるウシやニワトリの可食部、そしてヒトと生息環境を共有する野生ラットにおける高濃度の鉛・カドミウムの金属蓄積を明らかにしてきた。本渡航では、ザンビアの主要な家畜であるウシに注目し、血液・尿・ミルクのサンプリングを行った。鉱床の周囲および遠隔地にある9つの農場を回り、合計46頭から採材した(写真1)。これらのサンプルにおける金属濃度を測定するとともに、ウシへの生体影響の解析も行っていく予定である。
さらに、同地域において野生ラット(20匹)のサンプリングも行った。血液、肝臓、腎臓、心臓、脾臓、肺、精巣、脳、筋肉、骨(腓骨)および年齢推定のための水晶体をそれぞれ採材した(写真2、3)。上記のサンプルにおける金属蓄積濃度、マイクロアレイによる発現量の変化、パイロシークエンスによるエピジェネティック解析などを行う予定である。
②アフリカの環境汚染に関する国際シンポジウムへの参加
2012年9月3日にザンビア大学獣医学部で開催された「4th International Toxicology Symposium in Africa」に参加した(写真4、5)。このシンポジウムは、特にアフリカ地域の環境毒性学・環境化学に関するトピックを議論する目的で開始され、今年度で4回目となっている。今年は、ザンビア・ガーナ・南アフリカ・エジプト・ナイジェリア・ケニア・ウガンダ・カメルーン・スーダン・ジンバブエ・ブルキナファソおよび日本から参加し、合計で40名が発表を行った。今回の特徴としては、昨年度に比べて大学院生を中心としたポスター発表の数が多くなった点である。
報告者は、「Metal contaminated soil from mining area caused metal accumulation and biological responses in rats -from field and laboratory studies-」というタイトルで口頭発表を行った(参考資料:講演要旨)。報告者は、土壌金属汚染が野生ラットにおける金属蓄積および生体反応に寄与していることを、フィールド調査および室内暴露実験から明らかにした研究内容を発表するとともに、2012年5月に実施したカブエ鉱床地域のヒトの血液・尿・糞便サンプル採材状況を報告した。参加者からは多くの質問を頂き、環境毒性に関するディスカッションを行い、さらに英語での口頭発表という貴重な経験を得ることができた。