ザンビア共和国における環境汚染調査とシンポジウムの参加②

 

環境毒性学研究の展開と、持続可能な環境開発のための

環境マネージメントの推進

北海道大学大学院獣医学研究科・講師・池中良徳

 

派遣先:ザンビア大学・獣医学部(ザンビア共和国・ルサカ市)

派遣期間:2012年8月19日~9月6日

我々がアフリカで行ったフィールドレベルの先行研究により、一部の野生動物に環境化学物質が高濃度に蓄積しているのに加え、その曝露が原因と考えられる酸化ストレスマーカーや免疫制御因子が汚染地域の棲息動物で変動していることが明らかになってきた。また、2010年6月にナイジェリア北部ザンファラ州において、鉱山開発に伴う鉛中毒が発生し、5歳未満の子供400人以上の中毒死を含む、住人約3万人の中毒被害が報告されるなど、環境汚染の被害は野生動物のみでなく、ヒトにおいても顕在化しつつある。しかし、その独特で希少な生態系にどのような影響が出ているのか、またヒトにどのような被害が出ているのか、アフリカ地域における環境汚染の毒性学的報告は極めて少ない。

今回の調査対象地であるザンビア共和国は、近年の経済成長率がサブサハラアフリカ諸国の中でも特に著しく、実質GDP成長率で6.3%であると報告されている。ザンビア共和国の主な経済は鉱物であるが、その開発は多岐に渡っており、包括的な環境マネージメントシステムの構築が必要とされている。そこで、我々は、2007年度よりザンビアで鉱床開発による環境インパクトに関する調査を実施し、その汚染実態の報告を行ってきた(Arch Environ Contam Toxicol 2010, J Vet Med Sci 2010, AJEST 2010, EPOLL 2011, ET&C 2011、2012等)。その結果、鉱床周辺に生息する野生動物や家畜に鉱床開発が原因と考えられる汚染物質(特に鉛・カドミウム)の有意な蓄積と毒性影響(バイオマーカーの変動)が観察された。一方、汚染された環境や化学物質が蓄積している野生動物や家畜に対して、どのようなマネージメントを行っていく必要があるのか早急にその対策を練っていく必要がある。

本研修では、マネージメントの一環として、現在までの調査結果をレポートにまとめ、特に汚染による毒性影響が顕著に観察されたCentral ProvinceのPVO (州統轄獣医師)やKabwe地区のDVO (地区統轄獣医師)に提出した。レポートには、この地域で飼育されている家畜や家禽にWHOやFAOが定める基準値よりも大幅に凌駕する金属濃度を含む事なども含まれていたため、両統轄獣医師は、本レポート内容を元に、特に鉛の蓄積が著しく高かった一部地域の鶏に対して処分を下すことを決断した。この結果は、本研修および調査が実際のザンビアにおける環境および健康マネージメントに寄与できていることを示した結果である。

一方、統轄獣医師との話し合いの結果、今後の課題も浮き彫りになり、特に飲食の安全確保の面で対策を講じていく必要があることで合致した。そこで本研修では以下の2つの課題に注目し、試料採集および、問題解決に向けた議論を行った。

①  Kabwe地区におけるヒト、家畜および野生げっ歯類への毒性影響評価

本研修では、家畜の中でもザンビア共和国において特に重要なウシの血液、尿および牛乳を集めた。特に牛乳は、本地域のDVOやPVOからその汚染状況の把握を直接依頼され、重点課題と位置づけた。

また、本研修では野生げっ歯類の採集も行った。野生げっ歯類は人との生活圏が近く、その臓器蓄積レベルや毒性影響は、ヒトへ回帰できると考えられる。今回の調査では、ウシのサンプルが50頭分、野生げっ歯類が20匹集めることが出来た。これらのサンプルは日本に輸入後、蓄積する金属レベルを分析し、結果の報告を行う予定である。

② 4th International Symposium in Africa開催

4th International Toxicology Symposium in Africaは、アフリカで急激に進行する様々な環境問題を討論する場として、ザンビア共和国ルサカ市のザンビア大学獣医学部で2008年度より毎年開催されてきた国際シンポジウムである。これまで、1回~3回までの研究発表によりアフリカ諸国では大気汚染や残留農薬、オブソリュート農薬、重金属汚染等が深刻になりつつあり、既に人への健康被害が出始めている事が報告された。本シンポジウムには、政府関係者も参加しており、具体的な対策等も活発に議論され、今回の第4回大会でも引き続き活発な議論が期待される。また、申請者は第2回、第3回大会で発表しており、その研究内容について高い評価得ている。第4回大会では共著者として5演題で発表予定である。また、大会運営に関わる運営者の一人としてシンポジウムをサポートした。

以下の8演題が、今回のシンポジウムで共著者として発表した演題である。

 O-4 Biomarkers of pollution in Tigerfish, Hydrocynus vittatus, in rivers of the Kruger National Park, South Africa

JHJ van Vuren (University of Johannesburg, South Africa)

P-5 Distribution of metals in organs of Clarias gariepinus, Heterobranchus bidorsalis and Chrysichthys nigrodigitatus from River Offin at Dunkwa-on-Offin, Ghana

Jemima T. Marfo (University of Science and Technology, Kumasi, Ghana)

P-6 Concentrations and sources of Polycyclic Aromatic Hydrocarbons (PAHs) in the air from KNUST campus and Kejetia lorry station, Kumasi-Ghana

Nesta Bortey-Sam (Kwame Nkrumah University of Science and Technology, Ghana)

P-23 Heavy metal pollution in Japanese sea birds

Chihiro Ishii (Hokkaido University, Japan)

P-24 Characterization of xenobiotic metabolizing enzymes, especially Cytochrome P450 (CYP), in horse

Aki Hayami (Hokkaido University, Japan)

P-25 Characteristics of xenobiotic metabolism in birds: comparative metabolism of pyrene in chicken and rat

Minami Kawata (Hokkaido University, Japan)

P-26 Metabolism of pyrene, a polycyclic aromatic hydrocarbon in freshwater turtles

Balazs Oroszlany (Hokkaido University, Japan)

O-11 Metal contaminated soil from mining area caused metal accumulation and biological responses in rats -from field and laboratory studies-

Shouta M.M. Nakayama (Hokkaido University, Japan)